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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)20号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。

二 成立に争いのない甲第二号証(昭和四七年四月二一日付原明細書)によれば、本願発明は複数の異なる方向及び角度から人体である被検査体にX線又はγ線のような放射線を走査しながら照射し、各走査位置における画像、放射線吸収量により被検査体の関心ある領域、即ち被検査部位(例えば腫瘍)の位置、大きさ等の情報を検知するための装置に関するものであること、右走査は別紙図面(二)が示す被検査体1の各平面5b、5c、5d、5e、5f………について行うものであるが、このうち横切走査は同図面(三)が示すように装置の放射線源6から発せられるビームによつて複数方向に照射する方法で、一定方向の走査(例えば同図面の走査1)を終了後、放射線源の方向を回転し、再び一定方向の走査(例えば同図面の走査2)をするものであり、また、回転走査はある点を中心として一定の走査位置で放射線源を回転しながら走査を行い、次いで走査位置を横に移動し右同様の走査を繰返す方法であること(したがつて、横切走査によるも回転走査によるも、これを各別に繰返せば、同じ検知結果が得られる。)、しかし、後に検討する別紙図面(一)の本件装置においてはどのような走査方法であれ、個々の走査位置において各走査手段が扇形状のプラスチツクブロツク26の角度だけ振動し、被検査体32に放射線を照射して各照射部位における放射線の透過量を検知することの繰返しにより行われるものであること(このことは当事者間に争いがない。以下本件装置における走査を「扇状走査」という。)認められる。

三 補正後の本願発明の内容が請求の原因四、1のとおりであり、被検査体を透過する放射線が被検査体の断面が円形であることに起因する変化を受けないようにするための放射線減衰手段を備えることも各補正後の本願発明の要旨であることは当事者間に争いがない。そこで、右放射線減衰手段が原明細書に開示されているかどうかについて検討する。なお、本件装置においては前記のとおりどのような走査方法であれ、個々の走査位置において扇状走査が行われるのであるから、右の検討は、本件装置の扇状走査に関し本件各補正に係る事項が原明細書に開示されているか否かについて行うこととする。

1 前掲甲第二号証、成立に争いのない甲第三号証の一(昭和四九年一二月一九日付手続補正書)によれば、本願発明において走査を行う別紙図面(一)の本件装置について、原明細書には次のような記載があることが認められる。

<イ> コリメータ21および23間にはX線を照射されるべき被写体を位置づけるための間隙が存在しており、図示の例においては、この間隙はX線を照射される被写体に対する中心孔27を有するプラスチツクブロツク26によつて占められている(二二頁一五行ないし二〇行)。

<ロ> 電動機34によつて回動自在のチヨツパ33は、放射線ビームをしてコリメータ21および22を交互に通過せしめ、シンチレータ28および29にシンチレーシヨンを発生せしめ、それが第二次電子増倍管31によつて検知される(二三頁六行ないし一〇行)。

<ハ> 装置を使用している場合には、コリメータ21~24、減衰器25 シンチレータ28および29、光管30、二次電子増倍管31、チヨツパ33およびモータ34はブロツク26に対する角度だけ振動される。X線管20は、ブロツク26にまたがるのに十分な広さのビームを発生するから、その振動には関与しない。しかしながら、全体の装置はX線で検査されるべき被検査体のまわりでゆつくり回転するようになされている(二三頁一〇行ないし二〇行)。

<ニ> 被検査体とブロツク26との間の空間27は水の入つたバツグで充填されているので、シンチレータ28によつて受取られるビーム強度はそのビームが被検査体32を横切る際にできるだけ一定に保持され(二四頁八行ないし一三行)、

<ホ> かくして二次電子増倍管31が処理しなければならない読取り範囲を減少せしめる(二四頁一四行ないし一五行)。

2 右<ハ>の記載によれば、各走査位置において、本件装置のうちX線管20を除く各走査手段(コリメータ21ないし24、減衰器25、シンチレータ28および29光管30 二次電子増倍管31、チヨツパ33、モータ34)はX管20を中心にプラスチツクブロツク26に対する角度だけ左から右へ振動するが、前記<ロ>の記載によれば、その際チヨツパ33の回動によつて放射線ビームはコリメータ21及び22を交互に通過するのであるから、右の振動により、コリメータ21からの放射線ビームは連続的にではなく、小角度間隔で被検査体32の各部位を左から右へ順次照射(透過)し、透過した放射線はコリメータ23を通つてシンチレータ28により受取られ、光管30を通つて、二次電子増倍管31により読取られ処理されることが認められる。

3 次に、前記のとおり本件装置の各走査手段の振動により被検査体32の各部位は小角度間隔で順次、放射線ビームにより照射されるが、<イ>及び<ニ>に記載されているように、被検査体32は中心孔27内に置かれ、これとプラスチツクブロツク26との間の中心孔の空間27は水の入つたバツグにより充填されているので、各走査部位ごとに、コリメータ21を出た放射線ビームはプラスチツクブロツク26の上面からその上方内部に入射し、水バツグ、被検査体32、水バツグ(即ち中心孔27に円形処理された被検査体)を経て、プラスチツクブロツク26の下方内部からその下面まで(中心孔27のない部分ではプラスチツクブロツク26の上面から下面までのその内部全体)を照射して透過し(以下この放射線の経路を「透過経路」という。)、コリメータ23に達するのである。このことからみて「そのビームが被検査体32を横切る際」の「横切る」とは「透過する」を意味するものということができる。

ここで、<ニ>の記載のうち「シンチレータ28によつて受取られるビーム強度は……できるだけ一定に保持され」の技術的意義を考察すると、右の透過経路の長さはコリメータ21、23かX線管26を中心として振動し、かつプラスチツクブロツク26が扇形であることから、いずれの走査位置においても等しいということができる(このことは別紙図面(一)により明らかであり、当事者間にも争いがない。)。したがつて、透過経路が人体のほか数種の物質により形成されていても、その各物質の放射線吸収係数が人体のそれと等しければ、人体の形状いかんにかかわらずシンチレータ28が受取る各透過経路における放射線ビーム強度を一定に保持することができる。そして、ある透過経路において異なる吸収係数をもつ領域(異常部位)が存在すれば、シンチレータ28はこれを検知し、異なつた強度を受取ることになるが、右のように透過経路が人体と等しい放射線吸収係数の物質で形成されていれば、シンチレータ28によつて受取られた後二次電子増倍管31が処理すべき数値の読取り範囲を少なくするという効果を奏することができ、右の数値の解析により人体における異常部位の正確な発見という放射線による検査装置本来の目的を達成することができる。そうであれば、前記のように、本件装置において放射線の透過経路がいずれも等しく設定されていることに着目し、かつ右のような放射線による検査装置本来の目的に徴すれば、当業者ならば前記<ニ>の記載のうち放射線ビーム強度を一定に保持することに関する部分は、透過経路を人体と同じ放射線吸収係数をもつ物質で形成しシンチレータ28により受取られる放射線ビームの強度を一定に保持するとの意であり、そのように透過経路を形成することにより<ホ>記載のように二次電子増倍管31が処理しなければならない読取り範囲を減少させるという効果を奏するものと解すべきである。

しかして、水と人体の放射線吸収係数が等しいこと、プラスチツクのうち人体と等しい放射線吸収係数のものがあることは当事者間に争いがないから、本件装置のプラスチツクブロツクを右のようなプラスチツクにより形成すれば、これが水とともに放射線減衰手段となり、被検査体が中心孔27において水に囲まれ断面円形に処理されていても、放射線の透過経路におけるビーム強度は一定に保持され、本件装置が前記のような効果を奏するのであつて、このことは原明細書に開示されているものということができる。

4 これに対し、被告主張のようにプラスチツクブロツク26が単なる被検査体の支持手段であり放射線を透過するプラスチツクにより形成されていると解すると、前記<ニ>の記載により、本件装置は被検査体がこれと放射線吸収係数を同じくする水によつて中心孔27内に断面円形に処理されているにすぎないことになるから、各走査手段がX線管20を中心に振動することによりコリメータ21と23間に位置する中心孔27の放射線透過経路の長さが走査部位により異なることになる(別紙図面(一)によれば、中心孔27を放射線ビームが透過して左から右へ振動する場合、透過経路の長さは、中心孔の左端において零であり、以後右へ向うにしたがい順次大きくなり、中心孔の中心の位置で最大となり、以後右へ向うにしたがい順次小さくなり右端において零となる。)。したがつて、中心孔の各走査位置における放射線減衰量が異なることになるが、それにもかかわらず、<ニ>記載のようにシンチレータ28によつて受取られる放射線ビームの強度を一定にするためにはなんらかの補償手段が必要となる。被告はこの点に関し放射線のフイラメント電流を調整し放射線の強度を円形の被検査体の厚みを既知の変化に応じて変化させる手段により補償することが可能である旨主張するが、かかる手段についてはもとより原明細書に全く記載がなく、また、放射線強度を一定にするため、かかる手段が周知のものとして採択されていることについてこれを認めるに足りる証拠はない。その他、プラスチツクブロツク26を放射線に対し透明であるプラスチツクにより形成した場合、シンチレータ28が受取る放射線ビームの強度を一定にすることについての周知の補償手段の存在を認めるに足りる証拠もない。

また、被告はプラスチツクブロツク26の形状か扇形であるのは、被検査体の支持手段としてコリメータ22、23の振動を妨げないためである旨主張する。プラスチツクブロツク26を被検査体の支持手段であるとすれば右主張は肯認し得ないではないが、別紙図面(一)によれば本件装置においてプラスチツクブロツク26が被検査体の支持手段であることと、人体と同じ放射線吸収係数のプラスチツクにより形成されることは相容れないものではなく、プラスチツクブロツク26が支持手段であつて放射線減衰手段でないことが立証されない以上、右の主張は無意味なものというほかない。

5 以上述べたところによれば、原明細書には、被検査体を放射線減衰手段としての水により囲んで中心孔27内に断面を円形として処理したうえ、右のように被検査体の断面が円形であることに起因する変化を受けないようにするための放射線減衰手段としてのプラスチツクブロツク26を備えることの構成及びその目的、効果についての開示はあるものというべきである。

なお、前掲甲第二号証によれば、原明細書には「このブロツク(プラスチツクブロツク26の意)のプラスチツク材料例えばパースペツクス(Perspex)として知られているものでもあり得る」との記載があることが認められる(二二頁二〇行ないし二三頁二行)。右のパースペツクス(商標名と推測される)と称されるプラスチツクが人体と同じ放射線吸収係数を有することについてはこれを認めるに足りる証拠はないが、右記載によればパースペツクスは例示にすぎず、前記のように原明細書のプラスチツクブロツク26が放射線減衰手段として把握し得る以上、仮にパースペツクスが右のような性質を有しないとしても、右記載が正確性を欠くにとどまり、そのことによつて、原明細書にプラスチツクブロツク26が放射線減衰手段として開示されているとの前記認定までをもくつがえすものではないというべきである。

四 そうであれば、本件各補正が原明細書の要旨を変更するとの本件各補正却下決定の判断は誤りであるから、右決定はいずれも取消を免れない。

よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註その一〕 原告主張に係る補正後の本願発明と原明細書の記載は左のとおりてある。

1 補正後の本願発明

(一) 補正後の本願発明は、放射線源と一緒に回動するように構成された放射線減衰手段を含み、この減衰手段は、被検査体を透過する放射線が被検査体の断面が円形であることに起因する変化を受けないようにするためのものである。

(二) ここで、被検査体を透過する放射線が被検査体の断面が円形であることに起因する変化を受けるというのは、別紙図面(一)(原明細書添付図面第6a図)の装置(以下「本件装置」という。)において、コリメータ21、23が図面の左から右に向つて振動し、被検査体を走査する場合において、水の入つたバツグによつて断面を円形とされた被検査体の被検査部位の厚さが断面が円形であるために場所によつて著しく異り(端では薄く中央では厚い。)、このため被検査体を透過する放射線の減衰量が場所によつて大きく変化する(端の部位を検査するときは放射線の減衰量は少なく、中央の部位を検査するときは減衰量が大きい。)という趣旨である。

このように、放射線の減衰量が被検査部位の厚さが著しく異ることによつて大きく変化することは、シンチレータが検知する放射線の減衰量の最大値と最小値の差が大きいということでありそれにより必然的に二次電子増倍管31が処理しなければならない読取り範囲が大きくならざるを得ない。しかし、実際上の問題として二次電子増倍管31が処理しなければならない読取り範囲は出来るだけ小さいことが望ましい。そこで、補正後の本願発明の特許請求の範囲は放射線源と検出手段の間に放射線減衰手段を設け、それによつて、被検査体を透過する放射線が被検査体の断面が円形であることに起因する変化を受けないようにすることを内容としたものである。

(三) 補正後の本願発明を原明細書に開示された実施例に基づいて説明すると、別紙図面(一)の本件装置に示された扇形のプラスチツクブロツク26及び水バツグがこの放射線減衰手段に相当する。すなわち、プラスチツクブロツク26は、コリメータ21および23間に存在し、中心孔27を有する。この中心孔27に水の入つたバツグで周囲をかこんで丸い形状とされた被検査体(円形の被検査体)を位置させる。同図面においては、コリメータ21および23が図面の左から右に振動して被検査体を走査する場合、X線管20は左から右に振動せず固定され、プラスチツクブロツク26にまたがるのに十分な広さのビームを発生する。そこで、コリメータ21および23が図面の左から右に振動して被検査体を走査するとき放射線ビームはプラスチツクブロツク26及び円形の被検査体を透過し、それによつて減衰を受けるが、プラスチツクブロツク26が図示のように扇形であるためプラスチツクブロツク26及び円形の被検査体を通じた全体の厚さは各検査位置において一定であり、したがつて、放射線の減衰量がほぼ一定となる(骨や腫瘍による減衰量の差が残ることは勿論である。)。これによつて、二次電子増倍管31が処理しなければならない読取り範囲を小さくすることが可能となる。

2 原明細書の記載

(一) 原明細書には、「シンチレータ29および減衰器25を使用することにより、二次電子増倍管31に対する基準が得られる。減衰器25の材料は被検査体32と同様の吸収特性を有しているのでこの被検査体32を通過するX線からX線源の強度とは実質的に独立に正確な透過読みが得られる。ダミー減衰器25内の物質はX線管のスペクトラム変動をある程度まで補償する。(a)「被検査体とブロツク26との間の空間27は水の入つたバツグで充填されているので」、(b)「シンチレータ28によつて受取られるビーム強度はそのビームが被検査体32を横切る際にできるだけ一定に保持され」、(c)「かくして二次電子増倍管31が処理しなければならない読取り範囲を減少せしめる」。(d)「装置は最初にブロツク26の孔に丸い均質物を挿入することによつて較正される」。第六b図は同様の系を示しているが、本例においては、チヨツパを使用せず、被検査体を介して放射線源および読取りを測定するために二個の独立の検知器が使用されている。」との記載がある(二四頁一行ないし二〇行)。

(二) 本件装置には扇形のプラスチツクブロツク26が示されており、コリメータ21、23等が振動して走査する場合、ブロツク26が扇形であるため、X線管20から発生する放射線ビームがコリメータ21を通過してブロツク、水の入つたバツグ及び被検査体を透過するときのブロツク、水の入つたバツグ及び被検査体の各厚さの合計値が何れの検査位置においても一定であるものが示されている。

(三) 本件装置は後記横切走査及び回転走査のいずれの走査であつても、個々の走査位置において、コリメータ21ないし24、減衰器25、シンチレータ28、29、光管30、二次電子増倍管31、チヨツパ34、モータ33の各走査手段はプラスチツクブロツク26に対する角度だけ振動する。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

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